2022年3月末に年金担保貸付制度が廃止され、年金を担保にした資金調達を検討していた方の中には、代わりとなる方法を探している方も多いのではないでしょうか。
急な出費や生活費の補填が必要になった際、どのような選択肢があるのか不安に感じるかもしれません。
この記事では、年金担保貸付の代わりとして利用できる公的な制度から、資産を活用する方法、そして民間の金融サービスまで、多様な選択肢を網羅的に解説します。
具体的には、公的融資である生活福祉資金貸付制度、ゆうちょ銀行の貯金担保自動貸付、持ち家がある方向けのリバースモーゲージや不動産担保ローン、さらにはカードローンや消費者金融の利用に関する注意点まで、それぞれの特徴を詳しくご紹介します。
ご自身の状況に最適な解決策を見つけるための一助となれば幸いです。
記事のポイント
- 廃止された年金担保貸付制度の代わりとなる公的制度の種類と特徴
- 持ち家や貯金などの資産を活用した具体的な資金調達方法
- 年金受給者がカードローンを利用する際の条件や注意点
- 自身の状況に合わせて最適な借入方法を選択するための判断基準
年金担保貸付の代わりとなる公的制度
- 廃止された年金担保貸付制度とは?
- 国の融資である生活福祉資金貸付制度
- 生活福祉資金貸付制度の対象者と条件
- 無利子で借りられる場合もある
- 申し込みは社会福祉協議会の窓口へ
廃止された年金担保貸付制度とは?
かつて、年金受給者が利用できる公的な融資制度として「年金担保貸付制度」が存在しました。
これは、独立行政法人福祉医療機構が提供していたもので、将来受け取る年金を担保にすることで、比較的低い金利で資金を借り入れられる仕組みでした。
医療費や介護費、住宅改修費など、生活に必要な一時的な資金需要に応えることを目的としていたのです。
しかし、この制度は2022年3月末をもって新規の申込受付を終了し、廃止されています。
その背景には、本来高齢者の生活を支えるための年金が借入金の返済に充てられ、結果的に生活をさらに困窮させてしまうケースが問題視されたことがあります。
制度がなくなった現在、「年金を担保にお金を借りられる」と宣伝する業者はすべて違法な貸付業者であるため、細心の注意が必要です。
したがって、年金受給者の方が資金調達を考える際には、これから解説する他の代替案を検討することが大切になります。
国の融資である生活福祉資金貸付制度
年金担保貸付制度の代替案として、まず検討したいのが国の公的融資制度である「生活福祉資金貸付制度」です。
この制度は、低所得者世帯や高齢者世帯、障害者世帯が経済的に自立し、安定した生活を送れるように支援することを目的としています。
運営の主体は都道府県の社会福祉協議会であり、市区町村の社会福祉協議会が申込窓口となっています。
この制度の大きな特徴は、営利を目的としない公的な貸付であるため、民間の金融機関と比較して非常に低い金利、あるいは無利子で資金を借りられる可能性がある点です。
ただし、利用目的は生活再建や一時的な生活費の補填などに限定されており、趣味や娯楽、投機目的での利用は認められません。
あくまで生活に困窮している方々を支えるためのセーフティネットとしての役割を担っている制度です。
生活福祉資金貸付制度の対象者と条件
生活福祉資金貸付制度を利用するためには、一定の条件を満たす必要があります。
制度の対象となるのは、主に以下の3つの世帯です。
- 低所得者世帯:必要な資金を他から借り受けることが困難な、市町村民税非課税程度の世帯
- 障害者世帯:身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳などの交付を受けた方が属する世帯
- 高齢者世帯:65歳以上の高齢者が属する世帯(特に日常生活上、療養や介護を必要とする場合)
年金受給者の方は、この中の「高齢者世帯」または「低所得者世帯」に該当する可能性があります。
ただし、単に対象世帯であるというだけで自動的に融資が受けられるわけではありません。
申し込み後には審査が行われ、世帯の収入状況や借入の必要性、返済計画の妥当性などが総合的に判断されることになります。
他の公的支援制度が利用可能な場合は、そちらが優先されることもあります。
無利子で借りられる場合もある
生活福祉資金貸付制度の大きな魅力の一つは、その金利条件です。
資金の種類によって異なりますが、連帯保証人を立てることができる場合は、原則として無利子で借り入れが可能です。
これにより、返済の負担を大幅に軽減できます。
一方、連帯保証人を立てることが難しい場合でも、年1.5%という非常に低い金利が適用されます。
一般的なカードローンの上限金利が年18.0%程度であることを考えると、いかに有利な条件であるかが分かります。
主な資金の種類と金利
資金の種類 | 主な用途 | 金利(連帯保証人なし) | 金利(連帯保証人あり) |
---|---|---|---|
総合支援資金 | 生活再建までの生活費、住宅入居費など | 年1.5% | 無利子 |
福祉費 | 医療・介護サービス費、福祉用具購入費など | 年1.5% | 無利子 |
緊急小口資金 | 緊急かつ一時的に生計の維持が困難となった場合 | 無利子 | 無利子 |
教育支援資金 | 子どもの高校、大学などへの修学費用 | 無利子 | 無利子 |
このように、資金使途に応じて複数の種類が用意されており、それぞれ貸付限度額や返済期間が定められています。
申し込みは社会福祉協議会の窓口へ
生活福祉資金貸付制度の利用を検討する場合、最初のステップは、お住まいの市区町村にある社会福祉協議会へ相談することです。
いきなり申し込み手続きに入るのではなく、まずは担当の相談支援員に現在の生活状況や困りごとを詳しく話すことから始まります。
相談の過程で、世帯の状況や必要な資金額などを丁寧にヒアリングされ、この制度の利用が適切かどうかが判断されます。
場合によっては、貸付以外の他の支援制度やサービスの利用を勧められることもあります。
貸付が適切と判断された場合に、具体的な申込書類の作成へと進みます。
審査には一定の時間がかかり、申し込みから資金が交付されるまでには1ヶ月以上を要することもあるため、資金が必要な時期から逆算して、早めに相談を開始することが肝心です。
資産で探す年金担保貸付の代わりの方法
- ゆうちょ銀行の貯金担保自動貸付
- 持ち家を活用するリバースモーゲージ
- リバースモーゲージ利用時の注意点
- 不動産担保ローンという選択肢
- 生命保険の契約者貸付制度も活用可能
- 質屋で品物を担保にお金を借りる
ゆうちょ銀行の貯金担保自動貸付
ゆうちょ銀行に担保定額貯金や担保定期貯金をお持ちの場合、「貯金担保自動貸付」という制度を利用できる可能性があります。
これは、自身の貯金を担保にして、審査なしで手軽にお金を借りられるサービスです。
総合口座通帳にセットされている担保貯金の預入金額の90%以内で、最大300万円まで自動的に貸付けが受けられます。
利用方法は非常に簡単で、通常貯金の残高を超える金額を引き出そうとすると、不足分が自動的に貸し付けられます。
特別な申し込み手続きは不要です。
返済も、通常貯金口座へ入金するだけで自動的に行われるため、手間がかかりません。
金利も、担保とする貯金の約定金利に年0.25%〜0.5%を上乗せした程度と、他のローンに比べて低く設定されている点が大きなメリットです。
定期性の貯金を解約したくないけれど、一時的に資金が必要になった場合に非常に便利な方法と考えられます。
持ち家を活用するリバースモーゲージ
ご自宅を所有している高齢者の方であれば、「リバースモーゲージ」という資金調達方法も選択肢に入ります。
「リバース(Reverse=逆)」と「モーゲージ(Mortgage=抵当権)」を組み合わせた言葉で、自宅を担保にして金融機関から融資を受け、契約者が亡くなった際にその自宅を売却するなどして一括返済する仕組みです。
この制度の最大のメリットは、自宅に住み続けながら老後の生活資金を確保できる点にあります。
融資は一括で受け取るタイプや、年金のように毎月定額を受け取るタイプなど様々です。
生存中は利息のみを支払うプランが多く、月々の返済負担を抑えながら、ゆとりのある生活を送ることが可能になります。
公的機関や多くの民間金融機関が取り扱っており、商品によって対象年齢や融資限度額、金利などが異なります。
リバースモーゲージ利用時の注意点
自宅に住み続けられるなどメリットの多いリバースモーゲージですが、利用する際にはいくつかの注意点を理解しておく必要があります。
まず、長生きによるリスクが挙げられます。
想定していたよりも長生きした場合、融資限度額に達してしまい、それ以上の借り入れができなくなる可能性があります。
また、不動産価値の変動リスクも考慮しなければなりません。
地価の下落などにより自宅の担保価値が想定よりも下がってしまった場合、融資額が減額されたり、追加の担保を求められたりするケースも考えられます。
さらに、この制度は最終的に自宅を処分して返済することが前提となるため、自宅を子どもたちに相続させたいと考えている場合には不向きです。
利用を検討する際は、これらのリスクを十分に理解し、必ず家族や推定相続人とよく話し合ってから決定することが不可欠です。
不動産担保ローンという選択肢
前述のリバースモーゲージと似ていますが、少し性質が異なるのが「不動産担保ローン」です。
こちらも自宅などの不動産を担保にして融資を受ける点は共通していますが、リバースモーゲージが高齢者向けのローンであるのに対し、不動産担保ローンは年齢に関わらず利用できるのが一般的です。
返済方法にも大きな違いがあります。
不動産担保ローンでは、借り入れの翌月から元金と利息を毎月返済していく必要があります。
生存中の返済負担はリバースモーゲージより大きくなりますが、契約者が亡くなった後に自宅を売却する必要はありません。
無担保ローンに比べて金利が低く、高額な融資や長期の返済期間を設定しやすいというメリットがあります。
年金収入に加えて、不動産賃料など他の安定した収入がある方にとっては、有力な選択肢の一つとなる可能性があります。
生命保険の契約者貸付制度も活用可能
もし解約返戻金があるタイプの生命保険に加入している場合、「契約者貸付制度」を利用してお金を借りることもできます。
これは、自分が積み立ててきた保険の解約返戻金を担保にする制度です。
保険契約を解約することなく、一時的に資金を調達できるのが大きな特徴です。
この制度のメリットは、申し込み時の審査が不要であること、そして金利が比較的低い傾向にあることです。
貸付限度額は、一般的に解約返戻金の7割から9割程度とされています。
ただし、注意点として、借りたお金を返済しないままにしておくと、その元金と利息の合計額が解約返戻金を上回った時点で、保険契約が失効してしまうリスクがあります。
万が一の保障を失わないためにも、計画的な返済が求められます。
質屋で品物を担保にお金を借りる
貴金属やブランド品、高級腕時計など、価値のある品物をお持ちであれば、「質屋」を利用するのも一つの方法です。
質屋では、品物を担保として預けることで、その品物の査定額に応じた金額を借り入れることができます。
この方法の利点は、信用情報の照会や収入の審査がないため、誰でも迅速に資金を手にできる点です。
原則として3ヶ月の預かり期間内に、元金と利息を返済すれば品物は手元に戻ってきます。
もし返済ができなかった場合でも、品物の所有権が質屋に移るだけで、取り立てや督促を受けることはありません。
ただし、金利はカードローンなどと比較して高めに設定されていることが多いため、短期間での利用に向いている方法と言えます。
大切な品物を手放すリスクも考慮した上で、慎重に利用を判断する必要があります。
年金担保貸付の代わりとカードローンの注意点
- 年金受給者がローンを選択肢に
- 年金以外の収入が必要になる理由
- 消費者金融のカードローン利用時の注意
- 違法な業者に注意
年金受給者がローンを選択肢に
年金受給者の方が、民間の金融機関が提供するカードローンを利用することも選択肢の一つです。
カードローンは、担保や保証人が原則不要で、利用限度額の範囲内であれば繰り返し借り入れができる利便性の高い金融商品です。
ただし、年金受給者が申し込む際には、いくつかの点に留意する必要があります。
まず、多くのカードローンには申し込み可能な年齢の上限が設定されています。
一般的に60代後半から70代前半を上限としている金融機関が多く、ご自身の年齢が条件を満たしているかを確認することが最初のステップとなります。
また、審査では返済能力が最も重視されるため、収入状況が大きなポイントになります。
年金収入のみで申し込み可能な商品もありますが、選択肢は限られるのが実情です。
年金以外の収入が必要になる理由
カードローンの審査において、なぜ年金以外の安定収入が重要視されるのでしょうか。
これには主に二つの理由があります。
一つは、「返済能力」の判断基準です。
金融機関は、貸し倒れのリスクを避けるため、申込者に継続的かつ安定した返済能力があるかを厳しく審査します。
年金は安定した収入源ではありますが、アルバイトやパート、不動産収入など、年金以外の収入がある方が、より返済能力が高いと評価されやすくなります。
もう一つの理由は、貸金業法で定められている「総量規制」です。
これは、消費者金融などの貸金業者からの借入総額を、原則として年収の3分の1までに制限するルールです。
金融機関によっては、年金をこの「年収」に含めずに審査を行う場合があるため、年金以外の収入がないと、借入可能額がゼロと判断されてしまう可能性があるのです。
これらの理由から、年金以外の収入の有無が審査結果を大きく左右することになります。
消費者金融のカードローン利用時の注意
銀行系のカードローンに比べて、消費者金融が提供するカードローンの中には、より柔軟な審査基準を設けているところや、高齢者向けの専用ローンを用意している場合があります。
これにより、銀行では審査が難しかった方でも借り入れできる可能性があります。
即日融資に対応している会社が多いのも特徴です。
しかし、利用する際には注意も必要です。
一般的に、消費者金融のカードローンは銀行カードローンと比較して上限金利が高めに設定されています。
安易に借り入れを行うと、返済総額が想定以上に膨らんでしまう恐れがあります。
借り入れを行う前には、必ず返済シミュレーションなどを活用し、毎月の年金収入から無理なく返済していけるかどうかを慎重に確認することが大切です。
必要な金額だけを計画的に利用する姿勢が求められます。
違法な年金担保融資に注意しよう
前述の通り、年金担保貸付制度は廃止になっており、現在、法律で認められた年金を担保とする融資は存在しません。
そのため、「年金を担保にすれば誰でも借りられます」「審査なしで即日融資」といった甘い言葉で勧誘してくる業者は、すべて国に登録していない違法な「ヤミ金融業者」です。
このような業者からお金を借りてしまうと、法外な高金利を請求されたり、年金証書や預金通帳、キャッシュカードを取り上げられ、年金を勝手に引き出されてしまったりするなど、深刻な被害につながる危険性が極めて高いです。
生活が困窮している状況であっても、絶対に違法な業者を利用してはいけません。
もし、このような業者から勧誘を受けた場合は、すぐに警察や自治体の相談窓口、日本貸金業協会などに相談してください。
総括:最適な年金担保貸付の代わりを見つける
ここまで、廃止された年金担保貸付制度の代わりとなる様々な資金調達方法を解説しました。
ご自身の状況に最も適した方法を見つけるためには、それぞれの特徴を正しく理解し、比較検討することが鍵となります。
- 年金担保貸付制度は2022年3月末で廃止された
- 現在、年金を担保とする正規の融資は存在しない
- 国の公的制度として生活福祉資金貸付制度がある
- 生活福祉資金貸付は低所得・高齢者世帯などが対象
- 連帯保証人がいれば無利子で借りられる場合がある
- 申込窓口はお住まいの市区町村の社会福祉協議会
- ゆうちょ銀行の貯金担保自動貸付は審査が不要
- 自身の定期性貯金を担保に借り入れができる
- 持ち家があればリバースモーゲージが選択肢になる
- リバースモーゲージは自宅に住み続けながら資金を確保できる
- 不動産担保ローンは定期的な元利返済が必要
- 生命保険の契約者貸付は解約返戻金を担保にする
- 質屋は品物を担保に迅速な資金調達が可能
- カードローンは年齢制限や年金以外の収入が審査のポイント
- 違法な年金担保融資をうたう業者には絶対に注意する
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
この記事では、廃止された年金担保貸付制度の代わりとなる、様々な資金調達方法について詳しく解説しました。
公的な制度からご自身の資産を活用する方法、そして民間の金融サービスに至るまで、選択肢は決して一つではありません。
最も大切なのは、それぞれの方法が持つメリットとデメリット、そして利用条件を正しく理解することです。
その上で、ご自身の現在の収入状況や必要な資金額、将来の返済計画などを総合的に考慮し、最も適した手段を見極めることが重要になります。
もし、日々の生活に困窮し、どうすれば良いか分からないという状況でしたら、まずは一人で悩まず、お住まいの市区町村にある社会福祉協議会といった公的な窓口へ相談することから始めてみてください。
この記事が、あなたの不安を少しでも和らげ、問題解決への一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。