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給料差し押さえの会社の対応とは?計算方法や解雇リスクを解説

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元サラ金店長

大手消費者金融に転職し、店長になるが、退職。 そんな私が借金の事やサラ金、闇金について語ります。 詳細プロフィール

ある日突然、裁判所から従業員の給料差し押さえに関する物々しい封筒が届き、「一体どう対応すればいいのか

「会社にどんな責任があるのか」と不安を感じていませんか。

給料の差し押さえ命令書を受け取った瞬間から、会社は法律上「第三債務者」という立場になり、国の定めたルールに従って厳格な処理を行う義務が発生します。

しかし、具体的にいくら給料から引けばいいのかという計算方法や、問題のある社員を解雇できるのかといった労務上の判断については、専門的な知識が必要となり、戸惑うことも多いはずです。

無視をすれば会社自身が訴えられるリスクもありますし、対応を誤れば二重払いの損害を被る可能性もあります。

この記事では、給料差し押さえ通知が届いた際の会社の対応について、実務の流れから計算式、労務管理まで詳しく解説していきます。

記事のポイント

  • 裁判所から通知が届いた直後に行うべき初動対応と陳述書の提出期限
  • 間違えやすい差し押さえ可能額の計算ルールと通勤手当の取り扱い
  • 複数の差し押さえが競合した時の供託手続きと優先順位の判断
  • 従業員の解雇可否や退職時の処理など労務管理上の法的リスク

給料差し押さえへの会社の対応と初動の流れ

給料差し押さえへの会社の対応と初動の流れ

裁判所から「特別送達」という書留郵便で通知が届いた瞬間から、会社は従業員の借金問題における「第三債務者」として巻き込まれることになります。

ここでは、通知を受け取ってから最初に行うべきアクションや絶対に守らなければならない期限、提出書類の作成方法など、初動の重要なステップについて詳細に解説します。

裁判所からの通知到着後の流れと期限

裁判所からの通知到着後の流れと期限

会社宛てに裁判所から「特別送達」という書留郵便が届いた場合、それは単なる通知ではなく、受け取りを拒否できない強力な法的命令です。

たとえ総務担当者や受付のアルバイトスタッフが受け取ったとしても、その瞬間に「会社(第三債務者)への送達」が完了したとみなされ、法的な効力が発生します。

この命令書(債権差押命令)を受け取った時点で、会社には即座に「弁済禁止(べんさいきんし)」の義務が生じます。

これは、「その従業員に対して、差し押さえられた分の給料を支払ってはならない」という命令です。

通知が届いた直後の実務フローは、以下のステップで確実に進行させる必要があります。

初動対応の具体的なステップと期限管理

  1. 【最優先】受領日時の記録の封筒が来たら、必ず「受領日時」を封筒や管理簿に記録します,今後のすべての法的手続き(陳述書の提出期限など)は、この「送達を受けた日」を起算点としてカウントされるためです
  2. 【最優先】給与支払いの緊急停止・ロック
    経理・給与担当者へ即座に連絡し、対象従業員の給与支払いをシステム上でロックします,給料日直前の場合、振込データが既に銀行へ送信されている可能性がありますが、従業員の口座に着金する前であれば、「組戻し(振込の取り消し)」手続きを行う義務があります。これを怠ると、二重払いのリスクに直結します
  3. 本人の特定(同姓同名の確認)
    命令書に記載されている「債務者」の氏名、住所、生年月日を確認し、自社の従業員であることを特定します,同姓同名の別人がいないか、慎重に確認してください
  4. 陳述書の提出期限の確認(2週間以内)
    通知を受け取った日から2週間以内に、裁判所へ「陳述書」を提出しなければなりません,この期限を徒過すると損害賠償請求のリスクが生じるため、カレンダーに提出期限を明確に記入しましょう
  5. 支払い時期の確認(取立権の発生)
    通知が届いてすぐに債権者へ支払ってはいけません,法律上、債権者が取り立て可能になるのは、「債務者(従業員)にも差押命令が送達された日から1週間(または4週間)経過後」です,フライングで支払うとトラブルの元になるため、支払開始時期の確認が必要です

給料日当日に通知が届いた場合の対応

最も判断が難しいのが、給料日の当日や前日に通知が届いたケースです。

最高裁の判例では、「振込手続きが完了していても、従業員の口座に入金される前であれば、会社は組戻し等の措置を講じるべき」とされています。

「もう銀行にデータを送ったから手遅れだ」と自己判断して従業員に入金させてしまうと、後日債権者から「会社が支払うべきだった」として訴えられる可能性があります。

ギリギリのタイミングで届いた場合は、直ちに取引銀行へ連絡し、振込を停止できるか確認することが鉄則です。

このように、最初の数時間が勝負となります。

通知書を「あとで確認しよう」と机の上に放置することだけは絶対に避けてください。

提出が必要な陳述書の書き方と注意点

提出が必要な陳述書の書き方と注意点

裁判所から送られてくる書類一式の中には、「陳述書(第三債務者陳述書)」という回答用紙と返信用封筒が同封されています。

会社は、これを記入して必ず期限内に返送しなければなりません。

陳述書は、債権者が「本当にこの会社から回収できる見込みがあるのか」を判断するための重要な資料です。

主に以下の項目を記載します。

  • 債権の有無:従業員が存在して、給料を支払う契約があるか
  • 債権の額:月々の支給総額(額面)や手取り額の概算、次回支給日
  • 支払いの意思:差し押さえ命令に従って支払う意思があるか(通常は「ある」と回答します)
  • 他債権者からの差押え:既に他の借金や税金滞納などで差し押さえを受けていないか

虚偽記載のリスク

従業員をかばって「退職したことにする」や「給料を低く申告する」といった虚偽の記載は絶対に避けてください

これらは民事上の損害賠償請求の対象となるだけでなく、悪質な場合は公的な手続きを妨害したとして法的な責任を問われる可能性もあります。

書き方が分からない場合は、同封の記入例を熟読するか、顧問弁護士等の専門家に相談してください。

「よく分からないから出さない」という選択肢はありません。

会社が差し押さえを無視したらどうなるか

会社が差し押さえを無視したらどうなるか

経営者や担当者の中には、「従業員が勝手に作った借金問題に会社を巻き込まないでほしい」「面倒な手続きには一切関わりたくない」と考え、裁判所から届いた通知を無視したり、放置したりしたくなる方もいるかもしれません。

しかし、会社が裁判所からの差し押さえ命令を無視することは、会社自身の存続や信用を揺るがしかねない、極めて危険な行為です。

単なる「協力要請」ではなく、民事執行法に基づく「法的命令」であることを理解し、無視をした場合に会社にどのような制裁が待っているのかを具体的に把握しておきましょう。

無視・放置によって発生する3つの法的リスク

  • 取立訴訟(とりたてそしょう)を起こされる会社が支払いに応じない場合、債権者は会社を被告として「取立訴訟」を提起することができます,これにより、会社は裁判の当事者として法廷に立つことになり、従業員の借金相当額を会社が支払うよう判決で命じられるリスクがあります
  • 損害賠償を請求される陳述書の提出を怠ったり、虚偽の回答をしたりした結果、債権者が適切な回収ができずに損害を被った場合、その損害額を会社が賠償しなければなりません
  • 会社の資産が強制執行される取立訴訟で会社側が敗訴した場合、最悪のケースでは、従業員の借金を回収するために、会社の銀行口座や売掛金、社屋などの資産が差し押さえられる(強制執行される)可能性があります

陳述書の未提出だけでもリスクになる

特に注意が必要なのが、「支払う意思はあるが、陳述書を出すのを忘れていた」というケースです。

陳述書は、債権者が「この会社から回収できる見込みがあるか」を判断する唯一の資料です。

これを提出しないと、債権者は「会社が手続きする気の有無、そもそも従業員が在籍しているのか」が判断できません。

その結果、事実関係を確認するために、債権者がやむを得ず会社に対して訴訟を起こすという事態を招きかねません。

たった一枚の書類を出さなかっただけで、会社が訴訟トラブルに巻き込まれるのはあまりにも不合理です。

従業員の借金問題だったはずが、対応を誤ることで「会社 vs 債権者」の法的紛争へと発展してしまいます。

会社を守る唯一の方法は、感情を排して、法律に従い事務的に淡々と手続きを進めることです。

従業員に差し押さえ通知を行うタイミング

従業員に差し押さえ通知を行うタイミング

法律的な観点だけで言えば、会社から従業員に対して「差し押さえ通知が届いたこと」を知らせる義務は明記されていません。

原則として、裁判所は会社(第三債務者)へ送付すると同時に、債務者である従業員の自宅へも同じ通知書(債権差押命令)を送達しているからです。

しかし、実務の現場においては、通知書を受け取ったら「可能な限り速やかに、当日のうちにでも本人と個別に面談する」ことを強く推奨します。

会社からの連絡を省略してしまうと、後々大きなトラブルに発展するリスクが高いためです。

なぜ速やかな本人通知が必要なのか?

  • 本人が事態を把握していない可能性借金問題を家族に知られたくない従業員が、自宅に届いた裁判所からの特別送達を「居留守」を使って受け取らなかったり、住民票の住所に住んでおらず通知が届いていなかったりするケースが多々あります
  • 給料日の混乱と業務支障の回避本人が差し押さえを知らないまま給料日を迎えると、振込額が激減していることに驚き、パニックになります,「会社の計算ミスだ」「なぜ給料が少ないんだ」と経理部に怒鳴り込んで来たり、動揺して業務が手につかなくなったりするリスクがあります
  • 認識合わせとトラブル防止「いつから」「いくら」引かれるのかを事前に伝え、会社はあくまで法律に従って事務的に処理するだけであるというスタンスを明確にする必要があります

面談の実施方法と伝えるべき内容

面談を行う際は、従業員のプライバシーと尊厳に最大限の配慮が必要です。

他の社員に聞かれないよう、必ず会議室などの密室(個室)で行ってください。

担当者は、直属の上司ではなく、守秘義務を負う人事や経理の責任者が対応するのが望ましいでしょう。

面談では、感情的にならず、以下の事項を事務的に伝達します。

面談で伝えるべき事項チェックリスト

  • 裁判所から会社宛てに、債権差押命令が届いたという事実
  • これは会社の意思ではなく、法律(裁判所命令)に基づき、強制的に給料から控除しなければならないということ
  • 具体的に「次回の給料」から控除が開始されること
  • 手取り額がいくらになるか(概算)と、いつまで続くか(請求債権額に達するまで)
  • 会社としては事務手続きを行うのみであり、借金の内容について干渉はしないが、業務に支障が出ないよう努めてほしいこと

この際、絶対に避けるべきなのは、「借金の理由を根掘り葉掘り聞く」「説教をする」「解雇や退職をほのめかす」ことです。

これらはパワーハラスメントや不当解雇のトラブルに直結します。

会社はあくまで中立的な立場で、淡々と事実のみを伝える姿勢を貫いてください。

 

給料差し押さえにおける会社の対応と計算方法

給料差し押さえにおける会社の対応と計算方法

経理・給与計算担当者にとって、最もプレッシャーがかかるのが「いくら差し引いて、いくら本人に渡せばいいのか」という計算業務です。

法律の計算式は一見シンプルですが、手当の扱いや税金との関係など、落とし穴がいくつもあります。

差し押さえ可能額の正確な計算方法

差し押さえ可能額の正確な計算方法

給料の全額を差し押さえてしまうと、従業員とその家族は生活の糧を失い、生計が破綻してしまいます。

そのため、民事執行法(第152条)という法律によって、給料のうち「ここまでは従業員の生活費として残さなければならない」という「差押禁止範囲(さしおさえきんしはんい)」が明確に定められています。

会社(第三債務者)は、この法律のルールに従って計算した「差押可能額(債権者に支払う金額)」のみを給料から控除し、残りの金額は通常通り従業員に支給します。

計算の基準となるのは、あくまで税金や社会保険料を引いた後の「手取り額」です。

1. 一般的な借金(カードローン等)の場合の計算ルール

消費者金融からの借入やクレジットカードの未払いなど、一般的な債権(一般債権)の場合、計算ルールは手取り額の多寡によって2つのパターンに分かれます。

手取り額の範囲 会社が債権者に支払う額

(差押可能額)

従業員に渡す額

(差押禁止額)

33万円以下

※政令改正前基準

手取り額の 4分の1 手取り額の 4分の3
33万円超 ~ 44万円以下 手取り額の 4分の1 手取り額の 4分の3
44万円超 手取り額から 33万円を引いた全額 33万円(固定)

【重要】「33万円ルール」の理解

手取り額が高額(44万円超)な場合、「4分の1」だけを差し押さえると、従業員の手元に33万円以上の金額が残ることになります。

法律は「標準的な世帯の生活費として33万円あれば十分」と考えているため、手取り額から33万円を確保し、それ以外の余剰分はすべて没収(全額差し押さえ)できるという仕組みになっています。

※なお、以前は基準額が異なっていましたが、現在は民事執行法施行令の改正により、差押禁止額の上限が33万円(標準的な世帯の必要生計費)となっています。

2. 具体的な計算シミュレーション

実際に数字を当てはめて計算してみましょう。

計算結果に1円未満の端数が出た場合は、従業員の生活保護の観点から「切り捨て(従業員に多く渡す)」で処理するのが実務上の通例です。

ケースA:手取り額が24万円の場合(44万円以下)
  • 差押可能額 = 240,000円 × 1/4 = 60,000円(債権者へ)
  • 従業員支給額 = 240,000円 - 60,000円 = 180,000円
ケースB:手取り額が50万円の場合(44万円超)
  • 差押可能額 = 500,000円 - 330,000円 = 170,000円(債権者へ)
  • 従業員支給額 = 330,000円(固定額)

※単純に1/4(12.5万円)ではない点に注意が必要です。

 

3. 養育費などの特例(扶養義務債権)

差し押さえの原因が「養育費」や「婚姻費用(別居中の生活費)」の未払いである場合は、債権者(子供や配偶者)の生活を守る必要性が高いため、特例として差し押さえの範囲が拡大されます。

養育費等の場合の特別ルール

  • 手取り66万円以下の場合:手取り額の 2分の1 まで差し押さえ可能
  • 手取り66万円超の場合:手取り額から 33万円を引いた全額 が差し押さえ可能

つまり、養育費の滞納などの場合は、給料の半分を持っていかれることになります。

通知書に「扶養義務等に係る債権」という記載があるかどうかを必ず確認してください。

手取り額や通勤手当の計算上の取り扱い

手取り額や通勤手当の計算上の取り扱い

給与計算担当者が最も陥りやすいミスの一つが、差し押さえの基礎となる「手取り額」の算出です。

普段、私たちが給与明細を見て認識している「銀行振込額(手取り)」と、法律上の「計算上の手取り額」は、全くの別物であると認識する必要があります。

1. 法定控除のみが引ける「計算上の手取り」とは

民事執行法において、総支給額から控除することが認められているのは、以下の「法定控除(ほうていこうじょ)」に限られます。

【計算上の手取り額の算出式】

手取り額 = 総支給額 - (所得税 + 住民税 + 社会保険料)

※社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料が含まれます。

非常に重要なのは、会社独自の福利厚生や従業員との協定に基づいて控除している「私的な控除項目」は、一切引いてはいけないという点です。

これらを引いて計算してしまうと、差し押さえ可能額が過少になり、債権者から未払い分を請求される原因となります。

計算上「引いて良いもの」

(法定控除)

計算上「引いてはいけないもの」

(私的控除 → 支給額に残す)

  • 所得税
  • 住民税
  • 健康保険料
  • 厚生年金保険料
  • 介護保険料
  • 雇用保険料
  • 財形貯蓄
  • 社宅使用料・寮費
  • 社内貸付金の返済金
  • 生命保険料(団体扱い)
  • 労働組合費
  • 親睦会費・旅行積立金
  • 弁当代・食事代

社内貸付がある場合の注意点

「会社も従業員にお金を貸しているから、給料から優先的に回収したい」と考えるのは自然ですが、法律上、会社の貸付金返済を差し押さえ計算前に控除することは原則として認められません。

(相殺禁止の規定などによる)。

まずは裁判所の命令通りに差し押さえ分を確保する必要があります。

2. 通勤手当は「借金」か「税金」かで扱いが逆転する

もう一つの大きな落とし穴が「通勤手当」です。

通勤手当を計算のベース(総支給額)に含めるかどうかは、差し押さえの根拠となっている法律によって扱いが180度異なります。

差し押さえの種類 根拠法 通勤手当の扱い 理由・考え方
一般的な借金

(カードローン等)

民事執行法 含めない

(計算から除外)

通勤手当は業務遂行のための「実費弁償」であり、労働の対価としての給料とは性質が異なると解釈されるため
税金の滞納

(住民税・国税)

国税徴収法 含める

(合算して計算)

税法上の非課税枠とは関係なく、滞納処分においては「給与等の性質を有するもの」として、差押禁止額計算の基礎に含まれると規定されているため

このように、民事執行(裁判所からの命令)であれば通勤手当を除外して計算しますが、役所からの滞納処分通知であれば通勤手当を含めた総額で計算する必要があります。

特に税金の滞納処分の計算については複雑なため、国税庁の通達や計算例を確認し、間違いのないように進めることが重要です。

(出典:国税庁『第76条関係 給与の差押禁止』

通知書が届いた際は、まず「どこの機関から」「何の法律に基づいて」送られてきたものかを特定し、適切な計算式を適用してください。

ボーナスや退職金も差し押さえ対象か

ボーナスや退職金も差し押さえ対象か

毎月の給料だけでなく、ボーナス(賞与)や退職金も差し押さえの対象となります。

裁判所から届く命令書の「差押債権目録」には、通常「給料、賞与、退職金、その他これらに類する給与」と記載されており、会社はこれら全てから法律に基づいた金額を控除し、債権者に支払う義務を負います。

1. ボーナス(賞与)の計算は「給料と同じ」だが没収額が増えやすい

ボーナスに対する差し押さえの計算ルールは、基本的に毎月の給料(民事執行法第152条第1項)と同じです。

しかし、ボーナスは支給額が大きくなりやすいため、給料計算で解説した「33万円ルール」の影響を大きく受けます。

ボーナスの計算における注意点

手取り額が44万円を超えるボーナスの場合、「4分の1」という割合計算ではなく、「手取り額から33万円を引いた残り全額」が差し押さえ可能となります。

例えば、ボーナスの手取り額が60万円だった場合:

  • 誤った計算(1/4):60万円 × 1/4 = 15万円
  • 正しい計算(33万円控除):60万円 - 33万円 = 27万円

このように、まとまった金額が入るボーナス月は、債権者への支払額も跳ね上がるため、従業員からの問い合わせが増えるタイミングでもあります。

事前に計算ロジックを理解しておく必要があります。

2. 退職金は「4分の1」のみ。

33万円ルールは適用されない

一方で、退職金については扱いが異なります。

退職金は「賃金の後払い」という性格に加え、「退職後の生活保障」という重要な役割を持つため、給料よりも手厚く保護されています。

民事執行法(第152条第2項)により、退職金の差押可能額は「手取り額の4分の1」に限定されています。

ここで重要なのは、給料やボーナスと異なり、「上限33万円のルール」が適用されないという点です。

項目 差押可能額(債権者へ) 差押禁止額(従業員へ) 33万円ルールの適用
給料・賞与 手取りの1/4

(44万円超は33万円控除)

手取りの3/4

(上限33万円)

あり
退職金 手取りの 1/4 手取りの 3/4 なし

(高額でも3/4は守られる)

退職金が高額な場合の例

例えば、退職金の手取り額が2,000万円だった場合でも、差し押さえられるのはその4分の1である「500万円」までです。

残りの1,500万円(4分の3)は、必ず従業員本人に支払われます。

※ただし、税金の滞納処分(国税徴収法)の場合は計算式が全く異なるため、退職金であっても全額に近い金額を持っていかれる可能性があります。

退職金規定がある会社の場合、従業員が退職する際には、最後の給料だけでなく退職金の計算も忘れずに行い、債権者への支払い手続きを完了させてから、残額を本人に振り込むようにしてください。

住民税滞納と借金で計算はどう違うか

住民税滞納と借金で計算はどう違うか

給料差し押さえの通知が届いた際、まず確認しなければならないのが「差出人」です。

消費者金融や信販会社などの借金滞納(裁判所経由)と、住民税・国民健康保険料・年金などの「公租公課(税金等)」の滞納処分(役所から直接通知)では、根拠となる法律も計算ロジックも根本的に異なります。

最大の違いは、税金の滞納処分の方が「従業員の生活費をより厳しく見積もり、多くの金額を差し押さえる傾向がある」という点です。

同じ給料額であっても、借金の差し押さえと税金の差し押さえでは、会社が控除すべき金額が全く変わってくるため、混同しないよう注意が必要です。

1. 根拠法と計算方式の決定的な違い

借金の差し押さえは「民事執行法」に基づくのに対し、税金等の滞納処分は「国税徴収法(または地方税法)」に基づきます。

比較項目 借金(一般債権) 税金・社会保険料(滞納処分)
通知の差出人 地方裁判所 市区町村役場、税務署、年金事務所
根拠となる法律 民事執行法 国税徴収法、地方税法など
計算の考え方 定率・定額方式

(手取りの1/4など)

実額控除方式

(生活に必要な最低限の額を積み上げ、残りを全額没収)

通勤手当 計算に含めない 計算に含める

2. 税金滞納(国税徴収法)の計算ロジック

民事執行法が「手取りの4分の1」というシンプルな割合計算であるのに対し、国税徴収法の計算は非常に複雑です。

具体的には、総支給額から以下の項目を差し引いていき、「残った金額のすべて」を差し押さえます。

税金滞納時の「差押禁止額(従業員に残す額)」の算出イメージ

以下の合計額のみが従業員の手元に残ります。

  1. 法定控除額:所得税、住民税、社会保険料
  2. 本人の生活費:月額 10万円(一律基準)
  3. 扶養家族の生活費:配偶者や子供1人につき月額 約4.5万円(生計を一にする親族)
  4. 収益の20%:勤労意欲を維持するための調整額(総支給-法定控除 の20%相当)

例えば、独身で扶養家族がいない従業員の場合、「生活費10万円 + α」程度しか手元に残せない計算になることが多く、借金の差し押さえ(手取りの3/4は残る)と比較して、手取り額が大幅に減る(会社が天引きする額が増える)ケースがほとんどです。

3. 実務上の対応ポイント

税金の滞納処分通知書(差押通知書)には、通常、計算に使用するための専用シート(「債権差押調書」の謄本や計算書)が同封されています。

会社独自の判断で「借金の時と同じ計算でいいだろう」と処理してしまうと、納付額不足となり、役所から不足分を請求されるリスクがあります。

役所の担当部署(徴収課など)は電話での計算相談に応じてくれることが多いため、不明点があれば通知書の連絡先に問い合わせ、正確な納付額を確定させるのが最も安全です。

複数の差し押さえが競合した時の供託

複数の差し押さえが競合した時の供託

「消費者金融A社からの差し押さえ対応を続けている最中に、今度はカード会社B社からも通知が届いた」というように、同一の従業員に対して複数の債権者から差し押さえ命令が届くケースがあります。

これを法律用語で「差押えの競合(きょうごう)」と呼びます。

この状態になった時、会社の担当者が最もやってはいけないのが、「A社が先だからA社に全額払おう」とか「A社とB社で半分ずつ払おう」といったように、会社独自の判断で勝手に配分を決めて支払ってしまうことです。

債権者への配当額や順位を決定できるのは「裁判所」だけであり、一企業の担当者にその権限はありません

そのため、競合が発生した場合、会社は個別の債権者への支払いをストップし、差し押さえ可能額の全額を法務局へ預ける(供託する)義務が生じます。

これを「義務供託(ぎむきょうたく)」といいます。

競合発生時の正しい実務フロー(義務供託)

  1. 個別の支払いを停止する2社目(またはそれ以上)の通知が届いた時点で「競合」となります,直ちに各債権者への直接支払いを停止してください
  2. 法務局への供託(預け入れ)
    会社の本店所在地(債務の履行地)を管轄する「法務局」へ、計算した差し押さえ金額の全額を納付します,供託書の法令根拠欄には「民事執行法第156条第2項」と記載します
  3. 裁判所への「事情届(じじょうとどけ)」提出
    ここが最も重要な手続きです。「競合したので法務局にお金を預けました,あとは裁判所で配分してください」という報告書(事情届)を、供託書の写しと共に執行裁判所へ提出します

この「事情届」を提出することで初めて、裁判所にて「配当手続き」が開始され、会社は支払いの責任から法的に解放されます。

供託しただけで安心せず、必ず事情届を提出してください。

【重要】「税金」と「借金」が競合した場合

裁判所からの命令(借金)と、役所からの通知(税金・社会保険料)が競合した場合は、さらに複雑です。

「滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律(いわゆる調整法)」に基づき、どちらが優先されるか(先行か後行か)を判断しなければなりません。

計算ミスや手続きミスが許されない場面ですので、税金との競合が起きた際は、自己判断せずに直ちに弁護士などの専門家に相談し、指示を仰ぐことを強く推奨します。

※詳細な手続きや事情届の書式については、管轄の裁判所ウェブサイト等で確認することをお勧めします。

(出典:裁判所『民事執行手続(東京地方裁判所民事第21部)』)

給料差し押さえ時の会社の対応と従業員管理

給料差し押さえ時の会社の対応と従業員管理

給料差し押さえは、単なる事務処理の問題にとどまらず、その従業員を今後どう処遇するかという人事・労務管理の重大なテーマでもあります。

ここでは、解雇の可否や社内リスクの管理について、法的な観点から解説します。

差し押さえを理由とした解雇(クビ)は可能か

差し押さえを理由とした解雇(クビ)は可能か

経営者や人事責任者の方であれば、「金銭トラブルを起こして会社にまで迷惑をかけるような社員は、信用できないので辞めてもらいたい」と考えるのが自然な感情かもしれません。

しかし、法的な結論から申し上げますと、給料の差し押さえを受けた事実のみを理由として従業員を解雇することは、法律上「不当解雇(無効)」と判断される可能性が極めて高いです。

1. なぜ解雇が認められないのか

日本の労働法制において、従業員の解雇は非常に高いハードルが設けられています(労働契約法第16条の解雇権濫用法理)。

借金や給料の差し押さえは、あくまで「従業員の私生活上の問題」であり、それ自体が会社に対する背信行為や、業務遂行能力の著しい欠如を意味するものではないと解釈されているからです。

たとえ就業規則に「会社の体面を汚したとき」といった懲戒事由があったとしても、単に借金をして差し押さえを受けただけでは、その事由には該当しないというのが過去の裁判例の圧倒的な傾向です。

もし感情に任せて解雇を強行すれば、従業員から訴えられ、解雇期間中の賃金(バックペイ)や慰謝料を支払う羽目になりかねません。

2. 例外的に懲戒処分や配置転換が検討されるケース

ただし、借金問題が会社の実害に直結している場合や、職務の性質上どうしても看過できない場合に限り、会社として何らかのアクションを取ることが認められる余地があります。

懲戒解雇や配置転換が検討されうる具体的状況

  • 業務への著しい妨害・支障借金取り(債権者)が会社に頻繁に電話をかけてきたり、オフィスに押しかけてきたりして、他の社員の業務が手につかなくなるほどの実害が生じている場合,ただし、単に通知が届いた程度では該当しません
  • 会社資金の不正流用(横領)借金の返済に充てるために会社の金を横領したり、取引先から不正に金銭を受け取ったりしていた場合,これは明白な犯罪行為であり、懲戒解雇の正当な理由となります
  • 職務適格性の欠如(配置転換)経理担当者や警備員など、金銭を直接扱い、高度な信用や公正さが求められる職種の場合,「借金苦で魔が差すリスク」を回避するため、現金を扱わない部署への配置転換を行うことは、人事権の行使として認められる可能性があります

3. 会社が取るべき現実的な対応

解雇が難しい以上、会社が取るべき道は「排除」ではなく「管理」と「支援」です。

まずは本人と面談を行い、事実関係を確認した上で、業務に集中できる環境をどう作るかを話し合います。

「このままでは会社にいづらくなる」と本人が一番感じているはずです。

退職を強要するのではなく、「弁護士に相談して債務整理を行い、生活を立て直すこと」を強く勧めるのが、結果として会社の事務負担を減らし、トラブルを収束させるための最短ルートとなります。

会社にかかる迷惑と事務手数料の請求

会社にかかる迷惑と事務手数料の請求

正直なところ、会社にとって従業員の給料差し押さえ対応は「百害あって一利なし」と言わざるを得ません。

会社の売上や利益には1円も貢献しないにもかかわらず、経理や総務の担当者が通常業務の合間を縫って複雑な計算を行い、裁判所への書類作成や銀行窓口での手続きに貴重な時間を奪われるからです。

経営者や管理者としては、「従業員の個人的な不始末の尻拭いを、なぜ会社がコストをかけてやらなければならないのか」

「かかった人件費や事務手数料を本人に請求したい」と憤るのも無理はありません。

しかし、法的な現実は会社にとって非常にシビアなものとなっています。

1. 事務手数料を給料から「天引き」することは違法

まず、「会社に迷惑をかけたペナルティ(迷惑料)」や「事務手続き手数料」という名目で、従業員の給料から勝手に一定額を差し引くことは、労働基準法第24条「賃金全額払いの原則」に明確に違反します。

たとえ就業規則に「差し押さえ対応の手数料を徴収する」と記載していたとしても、労働者の完全な自由意思による同意がない限り、賃金から控除することは法的に認められません。

もし強行すれば、労働基準監督署からの是正勧告を受けたり、従業員から違法な賃金控除として返還を求められたりするリスクがあります。

これでは、ミイラ取りがミイラになりかねません。

2. 別途請求することは可能だが、回収は極めて困難

給料からの天引き(相殺)は禁止されていますが、民法上の「事務管理費用」や「損害賠償」として、給料とは別に請求書を発行して従業員に支払いを求めること自体は、理論上不可能ではありません。

しかし、現実的に考えてみてください。

借金の返済ができずに給料を差し押さえられ、生活費にも困窮している従業員に、会社への手数料を支払う経済的余裕があるでしょうか。

回収できる見込みは限りなく薄く、請求書作成や督促の手間がさらに増えるだけで終わる可能性が高いのが実情です。

【例外】振込手数料だけは「債権者負担」にできる

唯一、会社が負担しなくて済む実費コストは、債権者へ送金する際の「銀行振込手数料」です。

民法(第485条)の原則により、弁済にかかる費用は債権者(受け取る側)が負担すべきと解釈されています。

実務上は、差し押さえ金額から振込手数料を差し引いた額を送金することで、会社側の現金の持ち出しを防ぐことができます。

  • × 会社が負担する場合:差押額 50,000円 + 手数料 550円 = 会社支出 50,550円
  • ○ 債権者が負担する場合(推奨):差押額 50,000円 - 手数料 550円 = 送金額 49,450円※会社は50,000円分の債務を果たしたことになる

3. 会社としての割り切りと対策

結論として、手続きにかかる人件費、郵送代、コピー代などの事務コストは、残念ながら「人を雇う上でのリスク・管理コストの一部」として会社が負担せざるを得ないのが現在の日本の法制度です。

会社ができる唯一かつ最大のコスト削減策は、差し押さえ期間を1日でも短くすることです。

つまり、従業員に対して「いつまでも会社に迷惑をかけないよう、早急に弁護士に相談して債務整理(自己破産や個人再生)をしなさい」と強く指導し、法的に差し押さえを解除・停止させることこそが、結果的に会社の負担をなくす最短ルートとなります。

従業員が退職した場合の手続きと連絡

従業員が退職した場合の手続きと連絡

給料の差し押さえが続いている最中に、対象となっている従業員が退職することになった場合、会社の手続きはどうなるのでしょうか。

結論から言えば、従業員が会社を辞めた時点で、会社が給料を支払う義務(債務)そのものが消滅するため、会社に対する差し押さえの効力もそこで終了します。

会社としては「これで面倒な手続きから解放される」ことになりますが、手続きをきれいに終わらせるために、最後に行わなければならない重要なアクションがいくつか残っています。

1. 裁判所および債権者への「退職報告」

従業員が退職して給料が発生しなくなったという事実を、裁判所と債権者に正式に報告する必要があります。

黙って支払いを止めてしまうと、債権者から「なぜ今月の振り込みがないのか」と督促を受けたり、支払いを怠っていると疑われたりする可能性があるためです。

退職時に提出する書類(事情届)

陳述書の提出後であれば、裁判所に対して「事情届(じじょうとどけ)」または「計算書」の備考欄などを利用して、以下の内容を報告します。

  • 対象の従業員が、〇年〇月〇日付けで退職したこと
  • 退職に伴い、給料債権が消滅したこと
  • (退職金がない場合)退職金規程がない、または支給要件を満たさないため退職金はないこと

書式は裁判所によって異なりますが、定型の用紙がない場合は、「報告書」として自由書式で提出することも可能です。

念のため、退職届の写しや退職証明書を添付しておくと確実です。

2. 「最後の給料」と「退職金」の精算処理

退職が決まったからといって、直ちに差し押さえが止まるわけではありません。

在職期間中に発生した「最後の給料」や、退職時に支払われる「退職金」については、依然として差し押さえの対象となります。

退職月の給与計算を行う際は、通常通り規定の計算式で差し押さえ分を控除し、債権者に支払ってください。

また、退職金が出る場合は、「退職金の手取り額の4分の1」を控除して支払う必要があります。

「もう辞める社員だから全額渡してあげよう」という温情は、二重払いのリスクになるため禁物です。

3. 転職先への連絡は「絶対NG」のコンプライアンス違反

退職する従業員の転職先を知っている場合、「次の会社でも差し押さえの手続きが必要だろう」という親切心や、「あんな社員を採用するなんて気の毒だ」という義憤から、転職先の会社に連絡を入れたくなるかもしれません。

転職先への連絡は違法行為です

会社が本人の同意なく、転職先の企業に対して「この人は借金で差し押さえを受けていましたよ」と伝えることは、個人情報保護法違反およびプライバシーの侵害、あるいは名誉毀損に該当する違法行為です。

債務者がどこに転職したかを調査するのは、あくまで債権者の仕事です。

元の勤務先である会社が協力する義務は一切ありませんし、リスク管理の観点からも、退職後の個人情報には一切触れないことが鉄則です。

差し押さえの解除や取り下げへの協力

差し押さえの解除や取り下げへの協力

給料の差し押さえは、借金が完済されるまで、あるいは従業員が退職するまで、延々と毎月続きます。

会社としては、「この面倒な事務作業を一日でも早く終わらせたい」というのが本音でしょう。

しかし、会社側から一方的に「もう協力できない」と差し押さえを拒否したり停止させたりすることはできません

差し押さえを法的に解除・停止させるためには、当事者である従業員本人が具体的なアクションを起こす必要があります。

会社ができる最大かつ唯一の協力は、従業員に対して正しい知識を与え、専門家への相談を強く促すことです。

1. 差し押さえを止めるための2つのルート

一度始まった差し押さえを止める方法は、原則として以下の2つしかありません。

解決方法 概要 現実性
① 借金の全額返済 残っている借金と遅延損害金を一括で支払う 給料を差し押さえられている状態で一括返済できる資金力があるケースは稀であり、現実的ではありません
② 債務整理(法的整理) 自己破産個人再生を裁判所に申し立てる 法的な効力によって強制的に差し押さえをストップさせる、最も現実的で効果的な方法です

2. 「自己破産・個人再生」で差し押さえが止まる仕組み

多くの従業員は、「もう差し押さえられてしまったから手遅れだ」と諦めています。

しかし、それは誤解です。

差し押さえ中であっても、弁護士に依頼して「自己破産」「個人再生」の手続きを行えば、今の状況を劇的に変えることができます。

法的手続きによる解除の流れ

  • 手続き開始決定:裁判所が自己破産や個人再生の開始を決定すると、法律の効力により、給料差し押さえの手続きは「中止(ストップ)」または「失効(取り消し)」となります
  • 会社のメリット:差し押さえが止まれば、会社は債権者への支払いや供託をする必要がなくなり、通常通り従業員に給料全額を支払えるようになります,つまり、会社の事務負担もそこで終了します

【注意】「任意整理」では止まらないことが多い

債務整理には、裁判所を通さずに交渉する「任意整理」という方法もありますが、すでに差し押さえをしてきた強硬な債権者が、話し合いだけで差し押さえを取り下げる可能性は低いです。

差し押さえを確実に止めるなら、法的強制力のある自己破産か個人再生を選択する必要があります。

3. 会社による「専門家への相談推奨」が解決の鍵

借金問題に追い詰められた従業員は、正常な判断力を失っていることが多いです。

そこで、会社の上司や人事担当者が、第三者の視点から「弁護士や司法書士に相談して、法的に生活を立て直すこと」をアドバイスしてあげてください。

「会社としても、君が生活再建して仕事に集中してくれることが一番の望みだ」と伝え、法テラスや弁護士会の相談窓口を紹介することは、決してプライバシーの侵害にはなりません。

従業員の生活が安定し、差し押さえが解除されることは、結果として会社の業務効率化とリスク管理に直結する「Win-Win」の解決策なのです。

社内で他の社員にバレるのを防ぐ方法

社内で他の社員にバレるのを防ぐ方法

給料差し押さえに関する情報は、個人の経済状況や家庭の事情に直結する「究極のプライバシー情報」です。

もし、この情報が社内の噂話として広まってしまえば、本人は精神的に追い詰められて居場所を失い、退職せざるを得なくなる可能性があります。

また、情報の管理不備によってプライバシーを侵害されたとして、会社が損害賠償請求を受ける法的リスクも否定できません。

会社としては、単なる「配慮」のレベルを超えて、「厳格なコンプライアンス対応」として情報管理を徹底する必要があります。

1. 郵便物の受領・開封フローの厳格化

最初の漏洩リスクは、裁判所から届く「特別送達」の封筒です。

封筒には「特別送達」「裁判所」と明記されていることが多く、一目で異常事態であることが分かります。

  • 受付担当への指導:「裁判所からの郵便物は、宛名(代表者や人事部長など)以外の人間には触れさせず、即座に指定の責任者へ手渡す」というルールを徹底します,「○○さん宛に裁判所から来てますよ!」などと大声で取り次ぐことは厳禁です
  • 開封権限の限定:総務や経理の中でも、開封できる人間を限定し、平社員やアルバイトスタッフの目に触れないようにします

2. 本人呼び出しと面談時の配慮

本人への事情確認や面談を行う際も、細心の注意が必要です。

面談設定のNG行動と正しい対応

  • × NG行動:他の社員がいる前で「ちょっと話があるから来て」と深刻な顔で呼び出す,共有カレンダーに「給与差押面談」などと予定を入れる
  • ○ 正しい対応:メールやチャットツールなど、周囲に気づかれない手段で個別に連絡する,会議室は必ず「密室」を確保し、防音性にも配慮する,面談の時間帯も、他の社員が少ない時間や、昼休みなどを避けて設定する工夫が必要です

3. 情報共有範囲の「最小化」

この情報を知る必要があるのは、実務を担当する給与計算担当者と、その管理責任者、そして人事決裁権を持つ役員の一部のみです。

たとえ直属の上司であっても、業務上の必要性がなければ詳細を伝えるべきではありません。

「家庭の事情で給与振込の手続きに変更がある」といった、当たり障りのない説明に留めるのが賢明です。

役員間であっても、無用な噂話を防ぐため、必要最低限の共有に留める規律が求められます。

4. 給与明細の記載への配慮

毎月の給与明細に「差押控除」等の項目が表示される場合、本人が明細をデスクに置き忘れたり、紛失したりすることで他人の目に触れるリスクがあります。

Web給与明細システムを導入している場合はリスクが低いですが、紙の明細を渡している場合は、封緘(ふうかん)を徹底し、中身が透けない封筒を使用するなどの対策を講じてください。

備考欄への記載も、第三者が見ても直ちに借金と分からないようなコードや略称を使用するなどの工夫も検討に値します。

総括:給料差し押さえへの会社の対応まとめ

総括

  • 通知が届いたら無視せず、必ず2週間以内に陳述書を提出する
  • 手取り額の計算は「法定控除」のみを引き、通勤手当の扱いは法律によって使い分ける
  • 差し押さえのみを理由とした解雇は、不当解雇として訴えられるリスクが高い
  • 複数の差し押さえが競合した場合は、勝手に配分せず全額を「供託」する
  • 従業員には専門家への相談を促し、根本的な問題解決をサポートする姿勢が重要

給料差し押さえの対応は、日常業務ではないため戸惑うことも多いですが、法律という明確なルールが存在します。

感情的にならず、ルール通りに淡々と事務処理を進めることが、会社と従業員双方を守るための最善の方法です。

不明点があれば、自己判断せずに弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。